前のエピソード:
「誰だっけ?」
隣で目を覚ました僕の彼女「エミリー」は僕の顔を覗き込みながら問いかけた。
しかし、ここはパラレルワールド。僕はそんなことにいちいち驚かない。テントから這い出し、容赦なく照りつける太陽を一瞥し、エミリーに声をかける。
「バナナ食べる?」
「え、嫌いなんですけど……」
「やっぱりな……。とりあえず、出ておいでよ」
訝しげな表情をしながらも、もそもそとテントから這い出したエミリーは周りの景色に心底驚いている。
「てか、そもそもなんでテント?」
うんうん、そうだよな。わかる、わかるよその戸惑い。僕も最初はそうだった。
「僕はサトシ。よろしくね」
なぜ自分がここにいるのか分からないって顔してるエミリーに話しかける。
「名前は覚えてる?」
「ハナよ」
「平行世界って知ってる?」
相変わらずムスッとした表情で黙ったままコクコクと頷くエミリー。
「君はね、あっちの世界からこっちの世界に移ってきちゃったんだよ」
「は?」
「はぁ……せっかくここでの生活にも慣れてきたんだけどなぁ……」
「ぜんっぜん意味が分からないけど、説明……してくれる?」
「うん、まぁ、いろいろ教えてあげたいんだけど、多分もう時間ないわ……」
「ちょ、ちょっとまっ──」
僕は草むらから突如現れた虎のように鋭い爪を持つ魔獣に痛恨の一撃を喰らい、あっけなく意識を手放した──。
「誰だっけ?」
隣で目を覚ました私の彼氏「和馬」は私の顔を覗き込みながら問いかけた。
「つまんないジョークはやめてよ和馬。いいからコーヒー淹れてちょうだい」
「いやいや、ほんとに」
「ほんとにって何よ〜」
冗談のつもりで、思わずドンと彼のことを両手で押しやってしまった。不安定な姿勢だった彼はそのままベッドから変な体勢で落ち……そのまま動かなくなっちゃった。
「やだ、どうしよ!」
パニックになった私は誰かに助けを求めようと外に出て階段を……踏み外したのかな、意識が遠のいて──
「あっ! ちょうど持ってるわ」
ハナは一冊のラノベ小説をハンドバッグから取り出した。
「これにね、出てくるの。小池聡くん」
僕は『転生者サトシの平行世界サバイバル日誌』というタイトルのラノベ小説を受け取り、とりあえず『驚きリアクション』をささっと披露すると、あらすじを読み始めた……。
僕は次に起こることがだいたい予想できてしまった。
「ほら、ちょうどいいタイミングでトラックがつっこんでき……」
今回は驚きリアクションを披露する暇もなかった。
──窓の外にはチュンチュンと小鳥のさえずり。爽やかな朝の静けさを彩る朗らかな鳴き声をBGMにまどろみから抜け出せない僕はごろんと寝返りをうった。
「おはよう、サトシ」
僕の顔を覗き込みながら微笑む彼女の声で目を覚ました。
「おはよう、エミリー。やっと再会できたね」
了
か、完結した! 迷宮入り不可避だったのにすごい!
ところで和馬はどの世界線へ消えてしまったのか?笑