前のエピソード:
無言のまま歩く僕とハナ。ショッピングモールからの帰り道、どちらの思惑も外れた気まずさからか、俯いたま、お互い自分の影を一歩一歩踏みしめる。
この不可思議な状況にどう対処すればいいのか、何も思いつかない。確かに記憶とは曖昧なものではある。しかし、これは異常過ぎる事態だろう。
まとまらない思考を必死に巡らせていると、ハナ──柳涼子を名乗る──にひとつ聞いてみたいことを思いついた。
「免許、持ってたよね?」
「うん? オートマ限定だけど、あるわ」
これで、ひとつの疑問は解決するかもしれない。彼女の本当の名前。
「財布の中に……ほらっ、ってあれ……」
取り出した免許証を見つめながら、ハナが泣きそうな顔をしている。
「ど、どうしたの? 見せてもらってもいい?」
両目に涙を貯めたハナは、免許証を無言で差し出した。
「え……」
まったく、今日は何回驚けばいいのだろうか? 次から次に不可思議なことが起こり過ぎて、次第にリアクションも薄味になってくる。
「ハナでも、涼子でも、ない……ね」
「私、どうしちゃったの? なんで? 誰なの私?」
涙声で訴える彼女の怒りの矛先は、理不尽にも僕に突き刺さる。
「あっ」
僕は慌てて、自分の身分証を確かめた。
「誰、これ?」
そこには全く知らない名前が記載されていた。彼女だけではない、僕も何かの被害者なんだと、ハナに身分証を見せると、目を細め、小首をかしげる。
「し、知ってる名前だよ、これ!」
身分証によると、僕の名前は小池聡。そして彼女は……。
「私のエミリー・ホワイトよりましじゃない。それと、私の知ってる小池聡くんは……」
僕は今日、4度目の『驚きリアクション』を披露することになった。
第5話(完結) 再会
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