さっき夢から醒めたのだけれど、夢の内容なんてほとんど覚えていなくて、夢の続きさえも見たいとは思わなくて、それでもシーツはまだ肌寒い3月なのに寝汗で、ほんの少し湿っていたから、たぶん悪夢を見ていたのだと思う。
わずかに覚えていることといえば、私が車を盗もうとして、入るはずもない鍵穴に、古い私の家の鍵を差し込んだら偶然に開いてしまって、いざ開けてみるとそこが私の家だった、そんな夢だったのだと思う。
時計を見るとちょうど午前4時を過ぎたところだった。
寝汗のせいかは知らないけれどたまらなく喉が乾いていた。昨日届いたばかりのドアが2つしかない、段ボール箱を2つ重ねたほどの冷蔵庫から、パック牛乳を取り出してそのまま飲み干してしまった。
古い私の家では許されなかった行為だったけれど、この牛乳を飲むのはこの家ではどうせ私しか居ないのだからと、そう思うと何らためらいなどなかった。
飲み込んだ瞬間、牛乳は私の食道を上から下へと、苦手だった物理の原理のようにして、自然に流れていった。
その冷たさをひしひしと感じる。
春寒の京都にはまだまだ慣れないのだけれど、それでも冷たい牛乳のせいで、京都の明け方の寒さや冷蔵庫から取り出した牛乳より、いくぶんか私の身体が暖かいことだけはわかった。
私の今の体温は、ちょうど36度なんだ。
私は、今、京都にいるんだ。
私がこの街に来たのは、ちょうど2日前のことだった。
第2話 仁和寺の桜
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