このアパートの二階に上がったのは初めてだった。
二階からは、フェンスで囲まれた隣の空き地が見える。
杭を途中まで打っていたけれど、去年から工事はぱったりと止まっていたんだ。
3つの部屋のうち、私は、まるで最初から正解が分かっているかのように、201のドアの前に立った。
就活のときに、私をアテンドする人事から、ご丁寧にも「ノックをしてからお入りください」と言われたことを思い出した。
どうやって入ったらいいのかという疑問は解決したのだけれど、すぐに
「ノックをしたあとはどうしたらいいの?何を訊かれるの?」
と、私は、次々欲しがる子どもと同じくらいに、新しい疑問が湧いた。
「私は、あのときとなんにも変わっていないな。」
ノックすることは簡単だけれど、何を話したらいいのだろう。
あの時の面接は結局、しどろもどろになったから、今の私がいるのだし。
古びたアパートの玄関ドアの隙間から、いつかバーで彼が吸っていたタバコの匂いがする。
わずかに、私の部屋で掛けっぱなしにしたCDが聞こえる。
私は、就活のときと同じ強さ、同じリズムで201のドアをノックした。
何も答えは用意していない。
ノックをしたけれど、返事はない。
私は、もう一度ノックすることさえ辞めて、ドアノブに手を伸ばした。
就活のときとは違って、今度は、勢いよくドアを開けた。
私と同じ間取りの部屋だった。
部屋には誰も居なかったけれど、奥のベランダには、1人、男が居た。
私と同じく、雪が舞い上がる瞬間を発見した人かもしれない。
うまく平行世界を補完しつつ、交わりましたね!
考えてはいたけど難しそうなひとつの可能性を作っていただきありがとうございます!!
第4話 アパート(最終話) by aina
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