第3話 冬から離れる

二階にあがった私。ドアをノックする。就活のときの記憶が蘇る。ドアの先に居たのは。


このアパートの二階に上がったのは初めてだった。
二階からは、フェンスで囲まれた隣の空き地が見える。
杭を途中まで打っていたけれど、去年から工事はぱったりと止まっていたんだ。

3つの部屋のうち、私は、まるで最初から正解が分かっているかのように、201のドアの前に立った。
就活のときに、私をアテンドする人事から、ご丁寧にも「ノックをしてからお入りください」と言われたことを思い出した。
どうやって入ったらいいのかという疑問は解決したのだけれど、すぐに
「ノックをしたあとはどうしたらいいの?何を訊かれるの?」
と、私は、次々欲しがる子どもと同じくらいに、新しい疑問が湧いた。

「私は、あのときとなんにも変わっていないな。」
ノックすることは簡単だけれど、何を話したらいいのだろう。
あの時の面接は結局、しどろもどろになったから、今の私がいるのだし。

古びたアパートの玄関ドアの隙間から、いつかバーで彼が吸っていたタバコの匂いがする。
わずかに、私の部屋で掛けっぱなしにしたCDが聞こえる。
私は、就活のときと同じ強さ、同じリズムで201のドアをノックした。
何も答えは用意していない。

ノックをしたけれど、返事はない。
私は、もう一度ノックすることさえ辞めて、ドアノブに手を伸ばした。
就活のときとは違って、今度は、勢いよくドアを開けた。

私と同じ間取りの部屋だった。
部屋には誰も居なかったけれど、奥のベランダには、1人、男が居た。
私と同じく、雪が舞い上がる瞬間を発見した人かもしれない。


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企業法務あたりを漂う若手弁護士。 匿名だからって過激なことは言わないけれど、実名で言いにくいことってあるよね。IT、サメ、西語、純文学が好き(ワナビ)。 note→https://t.co/5ZCzbt6hLT。 画像はアリムラモハ様(@mohamedo62)!許諾感謝!
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