コンクリートを詰めた真っ赤なドラム缶。そこから突き出た顔に、おれは笑顔を投げかけた。
「ずいぶん逃げ回ってくれたが、年貢の納め時ってやつだ。恨むなら手前を恨むんだな」
目隠しをされ、口をタオルで塞がれたターゲットは、うう、ううと抵抗を試みている。どう考えても無駄だろ。
あとはこのドラム缶を東京湾へと放り込めば、仕事は終わりだ。魚には迷惑かもしれないが、こういう奴はどのみち人間にも迷惑をかける。ならば頭だけでも餌となって地球の役に立つべきだ。
舎弟のハチが洋菓子店で買ってきたモンブランを味わう。裏ごしされた栗の身が程よい甘さのクリームと噛み合っている。
仕事、つまり殺しを請け負う時は甘いものが必要である。なぜならばストレスのせいか血糖値が極端に下がり、意識を失うことがあるからだ。
「甘いものをのんびりと味わいながら殺しを請け負うやべえやつ」という噂が業界に広まるのは早かった。
ネジがぶっ壊れていると疑われたせいか、誰でもやるイカれた奴と思われたせいか、カブキ町におれの名前は響き渡り、仕事の量が増えた。暴対法が成立してからというもののろくなことがなかったが、今ではロレックスの腕時計を両手両足両耳にはめるくらいの余裕はある。
仕事の代金を払わないやつが、コンビニで買ったと思われる安物のアソートで済まそうとしたこともあった。1000円で殺しを請け負う奴がこの世にいてたまるか。そいつが入ったビニール袋にルマンドの喰いかすと、空っぽの袋を入れてやった。
「あ、兄貴ぃ! もう殺っていいんですかいのう!」
時間を気にしたハチがせっついてきた。おれは立ち上がり、無言でハチの鼻面に拳を入れる。
「甘いものはな、ゆっくり、ゆっくり喰わねえと危ねえんだ」
「す、すいやせん!」
「なんでかは教えたよな」
「へ、へい! 血糖値の野郎が跳ね上がって血管にダメージが」
わかってるじゃねえかと再び腰を下ろす。当然おれとてのんびりしているつもりはない。ただ血管へのダメージが怖いだけなのだ。
そろそろモンブランを喰い終わる。そうしたら、奴は海へドボンだ。最後の一口をどの角度から喰おうか迷っていると、依頼人から電話がかかってきた。
第2話 黒魔術師
https://p.yondeke.com/story/2319
第2話 人違いです
https://p.yondeke.com/story/2289
最後の「最後の一口を」って好き!!
続き書きたいけど時間が、、、。本業の空いた時間に何とか書きたいです!!