第3話 闇質屋のタブー

そりゃあ聞き捨てならねぇとカウンターの上にずいっと体を乗り出す風火だが……


前のエピソード:

 源のおやっさんの一言に、そりゃあ聞き捨てならねぇとカウンターの上にずいっと体を乗り出す風火。

「おやっさん」

「分かっておる」

 只事ではない風火の態度に回りのネズミ共もごくりと唾を飲む。こんな短気な女は見た事ねぇと。

「出処を聞くなんて、おれたちの商売じゃタブー中のタブーだ」

「なら」

「それでも聞かなきゃいけねぇくらい大事だってことよ」

「ふん……」

「ところで、風火。おめぇ……追っ手に付けられたりしちゃあいねぇよな?」

 乗り出した体を引っ込め、鼻を鳴らす風火が口を開こうとした刹那。

「御用だ! 御用だ!」

 けたたましく開かれる質屋MINAMOTOの玄関口。

 扉が開き終わる前に、ネズミ共は全員足を天井に掲げる。

 くるりと天地が逆さまになった瞬間、風火は瞬時におやっさんの手から漆塗りの箱と布切れを抜き取り、懐に忍ばせ音も無く天井に着地すると、すかざず煙幕を張る。

「ぶはっ! な、畜生め、目が見えんぞ!」

 頼む、うまく逃げてくれおやっさん。風火は天井に張り付きながら安否を想う。

 癪に触るじじいだが、ここで死なれちゃ目覚めが悪い。良くも悪くも、ネズミたちはおやっさんのおかげで日銭を稼いでる。風火と共にコウモリよろしく天井に張り付く周りのネズミ共も同じ思いだった。

 徐々に煙幕の霧が晴れ、床を見やる。おやっさんの姿が既にないことを確認すると、風火の一瞥を合図にネズミ共が天井と同じ図柄の布幕を音もなく広げる。隠れみの術とかいうやつだ。

「おい、誰もいねぇぞ!」

「畜生、逃げ足の速い奴らめ」

 罵声を上げながらも、柄の悪い男共は家探しをし始める。

 机や棚は薙ぎ倒され、帳簿らしき紙の束を放り投げる荒くれ者たち。

 もはやただの廃墟と化した質屋MINAMOTO。

 何も見つけられなかったのか、男の一人、苛立ちをぶつけんとばかりに、店主自慢の品「唐代の一品」を蹴り倒そうと、その刹那。

 男の右足は宙を舞い、行き場を失い勢いのついた身体が床に転がる。

「それだけは手ぇ出しちゃいけないよ」

 いつの間にやら、床に降り立っている風火。両手でぴんと張ったワイヤーに滴る鮮血。

 舌でぺろっと拭き取った血をぺっと吹き出すと、それを合図にネズミ共が音も無く一斉に降り立つ。

 数分後、店内は血のついていない箇所を探すほうが難しいほどの修羅と化していた。

「逃げ足も速いがこちとら短気が売りなんだい」

 ひとりだけ、生かしておいた一味の男をギロリと睨む。

「男よ、どうやってここを見つけた?」

「し、知らねぇよ! おれは親方についてきただけだ!」

 男の顔をじっと見つめたまま表情変えずにワイヤーをひゅんと一振り。男の左足が綺麗な弧を描きながら宙を舞う。

「もう一回聞いてあげる。私ってば優しいなぁ」

 風火、今日一番の笑顔を男に向ける。


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