前のエピソード:
しんしんと、静かに、とても静かに。地面に雪の層をゆっくりと重ねてゆく白いふわふわ。空に向かってはぁと息を吹きかけると、真っ白な結晶が空中に浮かび、少しして消える。
一面に広がる雪景色に紛れてそのまま消え入りたくなる。そんな雪みたいな透き通った心を持っている訳でもないのに。
私がそんな願望を持つのはいけないこと?
自問するが答えはでない。毎度のことだ。
あの日、今日と同じような雪景色。朱に染まったあの通り。けたたましく鳴るサイレンの音は両耳に聞こえていたけれど。
降り積もった雪で真っ白な車道に、私が振りかけた朱色はコントラストが強すぎた。急ブレーキをして駆けてきたトラックの運転手は私に声をかけ、慌ててどこかに電話していた。
そんな動けない私の左の耳にははっきりとした女性の声が耳元で囁いた。
だめじゃない、そんなんじゃ死ねないよ?
そうね、死ねなかったね。
囁きに答えても返事はなく、そこで意識は途切れた。
十年以上前のあの夜、大音量のギターが鳴り響き、ベッドの上で微動だにできなかったあの時間。音階なんてないに等しい鼓膜をつん裂くようなディストーションに何一つ抵抗できない置いてけぼりの私の意志。
音が止んだ瞬間、私は裸足で通りへと駆け出した。狂気に駆られたかのように、無我夢中に走り続け、気がつけば何かの衝撃とともに交差点を朱に染めた。
死にたいわけじゃなかった。ただあの音から逃げ出したかっただけなのに。
そんなんじゃ死ねないよなんて、なんであなたは私をあざ笑うの?
もう許してよ。そんなに私が憎かった?
相変わらす雪はしんしんと降り積もり、私の願いは静寂に掻き消され、心だけが騒ついている。
幻聴でもいいのに。
私は答えと、それとあなたの許しが欲しいだけ。
部屋に戻り、セブンスターに火を灯す。
ゆらゆらと、紫煙が立ち昇っては、開けっ放しの窓から北風が吹き消して。
もう感動です。丁寧に設定を使ってくださって、私では逃げて書けないような部分を描写してくださった気がしました。自分で1話を書いたことも忘れて泣きました(笑)
自分で書いた2話があるのでアップしますね。こちらの「朱」とパラレルになれたて本当に嬉しいです。ありがとうございました。
ありがとうございます。かなりダークな方向に書いてみましたが、気に入っていただけて嬉しいですー。
こういう文体をあまり書いた事がないので、インスピレーションも湧いたし、勉強になりました!!!