真っ赤なスウェット上下を纏う少女「風火(ふうか)」は裏通りを疾風の如く駆け抜ける。
壁に足を踏み出せば、彼女の重力は水平に。天に足を掲げれば、天井に吸い寄せられる足の裏。
彼女は己の重力を自在に操り、この街で生き抜くネズミ。
「おい! あっちへ逃げたぞ!」
「おう! ぜってぇ逃がすんじゃねぇぞ!」
数人の柄の悪い男どもが、大声を張り上げ狙う獲物はもちろんネズミの風火。
「はぁ、まったく賞金首になるってのも面倒だね」
悪態を吐きながらも、駆け上がった電柱のてっぺんから彼奴らを見下ろすその表情は満更でもない様子。
悪目立ちする真っ赤なスウェット上下は顕示欲と彼奴らへの挑発だろう。
「さて、今日のお宝を拝見っと」
背に背負った風呂敷からバランス崩すことなく本日のお宝をひょいっと引っ張り出す。
漆黒の美しい漆塗りに螺鈿(らでん)細工が散りばめられた手のひらサイズの宝箱を開けると、何やら小汚い布にメッセージらしきものが書いてあった。
「ちっ、字が読めねぇおれへの当てつけか?」
真っ赤なスウェットのフードを被り、電柱を駆け下りる。夕闇へ紛れた風火が尋ねたのは看板のない質屋『MINAMOTO』である。
「おぅ、ネズミ。元気だったか?」
「源のおやっさん、これ読めるかい?」
「ったく、挨拶くらいできねぇのかおめぇは……」
そう言いながらも、手渡された漆塗りの箱から布切れを取り出し、読み始めた質屋の店主。
老眼鏡越しでも分かる、明らかな狼狽を隠せぬ源の親父……。
「お……おめぇ、どこでこれを?」
第2話 白熱灯と驚きと
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