前のエピソード:
「失礼します」
私は理科準備室の扉を開けた。
放課後、日が傾き始め、職員会議の終わった先生が帰って来るのを待ち構えていたのだ。わざわざ、隣の教室棟から見張ったりして。
「あら、いらっしゃい、菜々美ちゃん」
先生はいつも通り柔らかく微笑んだ。私はいつも、この外面のいい笑みに委縮してしまうんだ。
「小林先生……その、私――」
「かっこよかったね、武田くん。ななちゃん、だってぇ。幼馴染だったんでしょう?」
先生は私の言葉を遮る。薄らいだ氷の刃が背中を撫でた。
先生の細くてしなやかな指が、シャツの上から私のお腹を撫でた。ねっとりと撫でまわした。
「もしかして、好き、だった。とか?」
「先生、私は……先生を裏切ろうだなんてこと。で、でもっ」
「でも?」
先生が力いっぱい私のおっぱいを掴んだ。ブラの上から形がねじれる。
「いっ……いたい」
「でも、何?でも、武田君と仲良くお話していいですか?でも、武田君と思い出語りしていいですか?でも、武田君と。でも、武田君と。付き合いたい?キスしたい?エッチしたい?」
「そ、そんな……」
先生の薄暗い瞳孔が私を呑み込む。
「初めて菜々美ちゃんが肌を許してくれた時、言ったよね。絶対に裏切らないことが条件だよって。女の子同士だもの、先生と生徒だもの。分かってくれてると思ったなァ……先生、思い出に負けちゃうのかなぁ?」
「……」
「ねえ、先生の質問に答えて」
ボタンがひとつずつ外される。シャツのネクタイが床に落ちた。
「武田君、校門で誰かを待ってたよ?誰を待っていたのかな?」
先生がすっと体を引いた。体に纏わりついた甘い香水。高校生が使うようなピンク色の明るい匂いじゃない。濃く沈んだ紫の、深く吸い込めばむせかえる匂い。
私の動悸を掴んで離さない。
「もう下校時間よ?早く帰りなね。菜々美ちゃん、また明日」
先生は何事もなかったように手を振った。
いつもの、授業で見せる、優しい先生の表情があった。
私のお腹にはくっきりと爪痕が残されて。
「し、失礼しましたッ」
私はネクタイを掴んで校門へと走った。
廊下を駆け抜けて、下駄箱を飛び出した先。校門にはもう誰の姿もなくって。
慌てて校門から続く坂道を見下ろした。
そこには優樹くんにべったりと腕を組んで歩く親友の香奈がいた。
彼の困ったような、照れたような顔が、私をどこまでも切り付けた。
ポケットのスマホが震える。着信に耳を当てる。
「菜々美ちゃん……今夜、時間ある?」
振り返るとそこには、窓から見下ろす先生の微笑みがあった。
まさかの一話からの大展開。
面白かったです。
だれが続きを書く方がたのしみです笑
まさかの展開で泣いてます先生怖い(笑