第2話 爽やかマリンビーチ!!南国テイストレモネード!!

突如現れたレモン、少女はレモンに立ち向かう。


 前のエピソード:

▶戦う』

 私の選択は戦うこと。

 丁度、折よく、偶然にも、今日は調理実習の日だ。バックにしまった百均包丁を掴み取り、ケースを抜き放つ。

「ネモネード・クリーチャー……お前の飛沫は受けない!」

 三段変速、ギアマキシ。

 弾けろ私のふくらはぎ。

 土手に立ちふさがるレモンを交わして、ドリフトターン。

 バースト、リスタート。

 包丁片手に立ち漕ぎ全開、ママチャリ騎乗の高速転身。

「アレグロ!スタッカート!」

 来たッ、レモンの酸性果汁の高速散布。一説には高圧噴射のガス圧と同等のスピード。亜音速に達するスッパレモン汁は視界を潰す。

 前輪ブレーキを握り締め、ハンドルを直角に切る。なぎ倒した車体と後輪ディスクブレーキ。横倒しのスライディングで交わす果汁。

 すれ違いざまに包丁を突き立てスライス。

 私は手に馴染んだレシピを繰り返す。

 『レモネードの作り方』

 何度も何度も繰り返してきた、研鑽を重ねた、私の技術。

 それはレモンを斬るためだけに、鋭さを増した。

 まずはスライス。

 薄切りにして果汁と香りを無駄にするのは三流の仕事。

 レモンの果肉同士の間隙をついて、入刀。切断。

「はッ、このパフュームはッ!」

 辺りに充満したカリフォルニヤの陽光と乾いた風。

「これは……檸檬ッ!」

 既に胸いっぱいに吸い込んだから手遅れ、術中にはまり込んだ。

 私を支配したのはとある妄想、悪だくみだ。

 そうだ、丸善に行こう。この黄金色の爆弾を仕掛けて、大爆発を起こすのだ。気づまりな丸善を吹き飛ばしたら、どんなに胸がすくだろう。

「いいや、これは精神攻撃だ。しっかりしろッ」

 レモンは泰然自若とそこに在る。中途半端に切り裂かれた果実からは、爽やかな香りが醸し出される。くそぅ、どんどんほとぼりが冷め、頭が澄み切って行く。

「じゅん!」

 片膝を付いたそこに、白い祈りが振りまかれる。

 そいつは砂糖だ。

「おばあちゃん!」

「じゅん、今よ!」

 包丁を手に駆ける。

「これで終わりよ……アンセム」

 水筒に詰められたシロップを振りまく。

 輪切りになったレモンが朝日にきらめく。スローに堕ちる果肉が突如空中に現れた瓶に詰められていく。とくとくと透明、注がれた糖蜜。

 チャリーン!

 討伐報酬の硬貨がレモンからはじき出される。

 百円のドロップ。

「ありがとう。お兄ちゃん」

 どこか懐かしい海の香りがした。

 私はそのレモネードで喉を潤した。

『爽やかマリンビーチ!!南国テイストレモネード!!』

『好評発売中!』

「はい、カットオッ!」


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いつまで経っても素人。最後の時は裸で仁王立ち希望。小説なんかを書いてます。
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