前のエピソード:
大柄な男が肩をいからせ、ソウマに詰め寄った。
「なんだ、お前は。くらわすぞコラ」
ソウマは落ち着き払って答える。
「せめて歯を磨いてから喋りなさい。そして巣に帰れ、下等生物よ」
当然のことながら例の三原則にのっとり、人間相手に危害を加えることは許されない。その為、ソウマは口喧嘩で相手を追い払う手段をとったのだ。
最良の手段を選択していたつもりだったが、人間が感情に従う生き物であるということをソウマは忘れていた。
大柄な男はもとより野次馬たちにも詰め寄られ身の危険を感じたソウマは、自分を守るために国際ボクシングモードを起動し、モハメド・アリスタイルを選択。華麗なフットワークで相手の周囲を舞い、巧みなスウェーバックで殴らずに敵の体力を奪う防御的なスタイルは、ソウマにとっては最善の選択だったが周囲の目には挑発としか映らない。
「この野郎、おれの仕事を奪いやがって」「人形野郎め死ね」などと雄叫びを上げた人間たちは、数の力でソウマを袋叩きにした。いくらモハメド・アリでも360度からいっぺんに襲いかかられては逃げ場が無いのである。
騒ぎが収束した後には、体中のいたる場所から煙を吹き出しているソウマと、ラジカセを抱えた女の子だけが残された。
「大丈夫ですか、お嬢さん」
女の子はソウマをしげしげと眺め、あっと大きな声を上げた。
「人形さん、もしかして、助けてくれたんですか? 耳から煙出てますけど」
「そのつもりです」
「ごめんなさい。なんか勝手にケンカふっかけてボコボコにされてたから、笑っちゃいました」
女の子はラジカセのカセットテープデッキを開け、小さなナイフを取り出した。
「野次馬さえ集まらなければ、殺れたのになあ。あの大男」
ソウマは目を見張り、少女の顔を見つめる。
「殺し屋でしたか」
「うん。人形では人を殺せないでしょ。だから人間に残された数少ない職業の一つ。あたしはレナ。あなたは?」
レナはソウマに近づき、右手を差し出した。
第3話 予定
https://p.yondeke.com/story/2220
続きを書いてくださりありがとうございます。
少女はまさかの仕事をしていた!
この二人がどうなるのか楽しみです。
出だしが想像力を引き立てるものでした。世の中には面白い人がいるな、って痛感しましたよ!
ありがとうございます!