目が覚めてから二十分が経過した。さっきから事態に進展はない。あるとすれば、ハナがバナナを食べ続けているということだった。スズメはいつの間にか泣き止んでいる。
ハナがバナナを食べ続けているのを見ていると、僕はあることを思い出した。そうだった。あのバナナは昨日の夕方に僕が通りすがりの商売人に無理矢理買わされたバナナだった。僕の中にある一つの仮説が立った。僕はハナにあることを聞くことにした。
「ねえ」
「うん」
ハナが訊き返す。僕は意を決して声を上げた。
「そのバナナ、ハナは昨晩も食べていたんだけどさ、食べたの覚えてる? 」
「…… 何言ってんの。覚えてないわ」
僕の仮説どおりなのだろうか。そんなはずは無いと思いながらもそれしか信じることができなかった。僕はある行動に出ることにした。
三年前のことだった。ハナとはじめてキスをしたのは。もうそんな前なのか。僕はそう思いながら。ハナが食べているバナナと同じバナナを手に取り、口に入れた。
僕もバナナを食べてから、三分が経過した。ハナは相変わらずバナナを食べている。やっぱりそうか。僕の記憶の中から、ハナとはじめてキスをした、あの日の記憶が薄れていく。次第にどうしてキスをしたかまで忘れてしまった。一生忘れないつもりでいたのに。僕の仮説は間違っていなかった。
あのバナナはただのバナナじゃない。これは食べた分だけ記憶が消える、記憶を消すバナナだった。
素晴らしー展開!! 好きです!