第5話(最終話) 僕と彼女

この星のバナナという食べ物はおいしい


前のエピソード:

 僕はいっそ現実的でない理由であって欲しいと願っていた。そう、ハナの記憶喪失を疑った時点では少なくともそう考えていたはずだった。しかし──。

「まず、私はハナじゃないしこの星の人間でもない。遠い遠い星からやってきた私は、この社会に紛れ込んで生態系を探るお仕事をしていただけ。え、何のため? って、うーん……そうね、この星を乗っ取る計画の第一段階とでも言えばいいかしら」

 のっけからぶっ飛び過ぎじゃないか?

 これはドッキリではないのだろうか?

 僕の頭はこの話についていけるだろうか?

 僕はベッドの上に座ったまま、ただ冷静に次の言葉を待った。人間、驚きすぎると案外冷静になれるものだな。

「まずハナというこの星の人間を私の中に取り込んだ。てっとり早く生態系を調べるためにね。で、あとは私が自分の意識を眠らせれば、ハナが私の体を使って自由に生活することになるんだけど──ここまでの話、理解できたかな?」

「あぁ……で、僕らの生態系とやらは理解できたのかい?」

 僕は状況的に今できる精一杯の強がりを言葉にした。どうやって取り込んだのかは聞かないでおこう……。

「この星のバナナという食べ物はおいしい」

「は?」

 少し間をおいて、ハナ──だった人間──は生態系の話を無視して語り始めた。

「目覚めたときは混乱したわ。でも理解した。ハナは私の中で突然死した。そう、寝ている間にね」

 なんとも恐ろしい話を淡々と語る彼女は少し楽しげだ。

「ハナに体を預けた時点から私の意識はずっと眠っていたけど、バナナを食べたときから少しづつ思い出したわ、」

「話が見えないんだけど……」

「時間稼ぎに着替えをしながらようやくハッキリと思い出したわ。私、つまりハナに意識を預ける前の本来の私はこの星のバナナが大好きだったのよ」

「ハナはバナナが嫌いだった」

「えぇ、そのようね。あなたの反応を見て理解したわ」

 彼女の鋭い眼差しに負けた僕は視線を足元に落とす。本当にハナじゃないんだって実感してしまった。

「あなたが暴れたりしたら面倒だったのでまずは首輪をつけさせてもらった。それから──」

 彼女は新しいバナナを頬張り、感極まった顔している。

 あぁ、可愛い。

 この顔だけ見ていればハナにしか見えないのに、ハナがもうこの世にいないだなんて……。

 僕は悲しみと諦めの境地から投げやりな一言を発してしまった。

「で、どうするんだよ、僕を……そしてこの星を…………」

 彼女はまたしても勝ち誇った顔をしている。

「何も」

「え?」

 どうにも信じがたい。話の流れから、きっとこの世界は滅亡させられるんだって半ば諦めていた僕は逆に動揺した。

「り、理由を聞いても?」

「そうね、バナナが食べれなくなるのは嫌よ」

「それだけ?」

「えぇ、そうね。それだけ」

「じゃあ、この──」

 彼女は僕の唇を人差し指で塞ぎ、首輪を優しく外してくれた。

「私の故郷の星には伝えておくわ。この星に手はださないでねって」

 そう言って、僕にウィンクをする彼女はハルにしか見えない。

「ただし、あなたは私のために毎日バナナを買ってくること」

「わ、わかった」

「それと──」

 私を毎日可愛がることって、最後に小さな声ではにかみながら呟く彼女。頬を赤らめるバナナ大好き異星人が急に愛おしく感じた。

 どうやら僕はバナナでこの星を救ったようだ。


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