前のエピソード:
この世界には、行動を乗っ取ってしまう寄生虫がいるという。
「なんだそれ、最悪だな」
僕は、友人たちと笑いながらそんな話をしていた。
懐かしい大学時代のことだ──。
今、目の前で起こっていること。それが全てを物語っているように思えた。あの時笑い話にしていた現実がハナに起こっている。そんな感想を抱きながら、僕はハナを怒らせないよう、慎重に、そして冷静に答えを模索していた。
自分の彼女が、突然別の人間になったら──じわじわと僕の脳を締め付けるような──この恐怖をうまく言葉で言い表せない。まぁ、いい言葉が見つかったところで説明する相手もいないのだが。
一体ハナは誰なんだ? 終わらない疑問符が頭のなかで繰り返し突きつけられる。
「ところで──」
キッチンからハナが話しかける。
「理由を説明してよ!」
僕は先手を打ってハナの言葉を遮った。少し強めの言葉にハナは一瞬たじろいだようにも見えたが、シャンと背筋を伸ばした、ハナらしくない姿勢でゆっくりと語り始めた。
「いいわ、話してあげる」
そう、思いもしなかった事実、知りたくもなかった事実を。
第5話(最終話) 僕と彼女
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