前のエピソード:
篠崎和馬。
僕たちの共通の知人で、ハナ――どういうわけかいまは柳涼子を名乗っている――にいたっては大学の同級生である。
僕らはこの不毛な状況を解決するため、昼を待って和馬の勤め先である郊外のショッピングモールへと赴いた。
「誰……あんたら?」
思ってもみなかった言葉が和馬の口から発せられた。
僕もハナも当然のように混乱している。
「な、なに言ってんだよ和馬……」
「そうよ。先週だってゼミの同窓会でいっしょだったじゃない!」
それでも和馬の顔には困惑の色がありありと見て取れる。
どうやら冗談や悪ふざけではなさそうだ。
「なにこれ、どっきり? おれのスマホの番号誰から聞いたの?」
電話口でもかなりの押し問答だった。
しかし実際に会えば事態が好転するはずだと思っていたのに。
和馬の口調は困惑のそれから、次第にイラつきへと変じていった。
「こう見えて忙しいんすよ、おれ。昼休憩も無駄にできないからこれで」
「あ……」
「ちょ、まってよ篠崎くんっ」
僕らの懇願もむなしく、和馬はショッピングモールの客の群れのなかへと姿を溶かしていった。
残された僕らふたりの胸に去来したもの。
それはさらなる混乱と、自らのアイデンティティの消失への恐怖だった。
第4話 私よりましじゃない
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