第3話 確信

ハナの振る舞いに、本当に大変なことが起こっているのだと気づかされる…


前のエピソード:

 ハナは勝ち誇った表情をして、「おすわり」と言った。

 僕は自分の首から伸びた手綱を掴もうとする。しかし、ハナがそれを強く引き寄せ、僕の体勢が崩れる。

「痛いなあ」

 僕がそう言う。手綱を引かれたままでは、うまく体勢を整えることができない。

「そんなこと言っていいの」

 ハナが笑顔を浮かべながら僕を見ている。ハナと僕の関係は、一晩で大きく変わってしまったようだ。ハナの言葉、そしてその手に握られた手綱が意味することは理解できたが、どうしてこうなってしまったのか、原因はさっぱり分からなかった。

「やめようよ、こんなこと」

 僕は冷静に、そう言ってみた。想像通り、願ったリアクションは帰ってこなかった。

「だから、そんなこと言っちゃだめでしょ」

 ハナはそう言って、また手綱を引っ張った。僕はよろめき、そして前に倒れ込んだ。ハナの身体を押してしまいそうになるのを、なんとか避けた。四つん這いになった僕に、ハナは手を差し伸べることもなく言った。

「言葉には気をつけてよね。ほら、こっち来て」

 ハナは、四つん這いの僕の首輪から伸びる手綱を持ったまま、歩き出した。認めたくないけれど、これでは本当に、奴隷のような扱いだ。ただ、刺激するとなにをするか分からなかったし、いままでのハナでは考えられないような振る舞いを少し興味深くも感じていた。だから、少しだけハナに付き合ってみることにした。

「ここに座りなさい」

 そう言ってハナは、手綱を木製のダブルベッドの端っこにくくりつけた。僕はあぐらをかいて、そこに座った。見上げると、見慣れたハルの顔がこちらを見ていた。

「いつも通りにしてて」

 すこしだけ柔らかい口調になった気がしたが、言っていることは全く優しくない。いつもとは、何のことを言っているのだろう。

 ハナは、小さくため息をつくと、「こまっちゃう」と言って、再びキッチンのほうに向かっていった。

「お腹空いてる?」

 冷蔵庫の中を覗き込みながら、ハナは僕に尋ねた。僕は何も答えなかった。昨日までのハナのようで、困惑していた。

 僕が答えないでいると、ハナが怒った顔で戻ってきた。

 すぐそばから僕を見下ろし、「なんで答えないの?」と言った。

「ごめん」

 僕が謝ると、ハナはいつもより低い声で、「ごめんじゃなくて、理由を聞いてるの」と言った。ハナは、そういう詰め方をする人を僕が苦手なことを、知っているはずだった。

「突然だったからびっくりして」

 なんとか絞り出した言葉に、ハナは納得していないようだったが、それでもキッチンに歩いていった。その、ハナとは思えない背筋の伸びた歩き方を見ながら、本当に悪いことが起こっているだと、僕は確信した。


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